2018年05月07日

【平成30年度税制改正に関する建議書】

■消費税における単一税率及び請求書等保存方式の維持■
 日税連は、これまでも単一税率制度の維持を強く主張してきたが、税率の引き上げが目前に迫る中、平成30年度税制改正が軽減税率制度を撤回することのできる事実上最後の機会であると考え、建議書においては重要建議項目の最初に据えることとした。

(1)単一税率制度の維持
   軽減税率制度には次のような問題がある。
  ・区分経理等により事業者の事務負担が増加する
  ・逆進性対策として非効率であるうえに、財政が毀損し社会保障給付の抑
制が必要になる
  ・簡易課税制度が複雑な制度となる
  ・軽減税率適用に関する訴訟等が増加する
   特に、事業者の事務負担の増加は軽視できない問題である。
  例えば、国税庁は「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(制度概要編)」
(平成29年1月改訂)及び「同(個別事例編)」(同)を公表しているが、事
業者には、こうした項目の一つ一つに適切に対応することが求められてい
るが、その一つ一つに膨大な事務負担を強いられることになる。
 こうした観点から、日税連は低所得者対策の代替案として、あらかじめ
国が一定額を入金したプリペイドカードを配付する方法や、一定額の簡素
な給付措置を提言した。プリペイドカードによる方法は、購入時にカード
をレジにかざすなどし、軽減税率対象品の場合、標準税率と軽減税率の差
に相当する消費税額がカードから引かれる仕組みである。
また、簡素な給付措置は、平成26年4月の消費税率8%への引き上げによ
る影響を緩和するため、低所得者に対する暫定的措置として導入された
「臨時福祉給付金」のような仕組みである。
 いずれの措置も、低所得者へのピンポイントの給付が可能である点にお
いて、軽減税率制度より優れているといえる。
  (2)請求書等保存方式の維持
    適格請求書等保存方式の導入は、平成35年10月からであるが、平成
31年10月からは、区分記載請求書等保存方式が導入される予定であ
る。換言すれば、もし軽減税率制度が導入されない場合であっても、現
状では適格請求書等保存方式は導入されることとなる。
適格請求書等保存方式にも、次のような問題がある。
・事業者及び税務官公署の事務に多大な影響を与える
・名目GDP600兆円に向けた成長戦略、行政手続コスト(事業者の作業時
間)20%の削減目標を掲げる国の方針に反する
   ・税務官公署においては、実調率の低下が顕著である中、さらなる負担
を強いることとなり、適正課税が脅かされる
特に事務負担の増加は、事業者だけにとどまらず、行政コストにもそ
の影響が及ぶため、日本経済への影響が懸念される。
 こうした観点から、日税連は、現行の請求書等保存方式の維持を主張
するとともに、軽減税率制度への対応として、区分経理等に関しては、
現行の請求書等保存方式に一定の記載事項を追加することを提言した。
 (3)消費税制の抜本的見直し
    適格請求書等保存方式のもう一つの問題は、免税事業者が取引から排
除される恐れがあることである。日税連は、その検討に当たっては、特
にこの「免税事業者の排除問題」への措置を講じるよう主張した。
なお、具体的な見直しの方向性として、「基準期間制度を廃止し、す
べての事業者を課税事業者として取り扱い、新たに小規模事業者に対す
る申告不要制度を創設すること」を別途項目で提言している。

■所得控除の抜本的見直し■
 
 (1)人的控除
    人的控除は、所得のうちそこまでは課税されない課税最低限を構成す
るものである。このため、人的控除は租税法における憲法25条の生存権
保障の現れであると解されている。
したがって、給与所得控除及び公的年金等控除の水準が過大であること
や、こうした所得計算上の控除が適用されない事業所得者等とのバランス
も踏まえ検討していくことが必要である。
 給与所得控除は、「勤務費用の概算経費」と「他の所得との負担調整」
からなるとされているが、他の所得との負担調整の意義や給与所得と事業
所得を明確に分ける意義は薄れているといえる。
 公的年金等への課税は、拠出時に社会保険料控除として全額控除され、
給付時に課税される仕組みとなっている。その上、給付時には公的年金等
控除が適用され、実質的に非課税に近い課税制度となっている。したがっ
て、公的年金等控除の見直しについても検討すべきである。
 以上のことより、給与所得控除や公的年金等控除の所得計算上の控除を
縮減した上で、人的控除を中心として課税最低限を確保することが適切で
ある。現行の所得の種類ごとの負担調整、すなわち所得計算上の控除を縮
減し、人的な事情による負担調整である人的控除を拡充することにより、
課税最低限を確保する税制の構築を検討すべきである。
 (2)税額控除化の検討
    現行の所得控除方式は、適用税率の高い高所得者に有利な制度であ
り、所得金額により税負担の軽減効果に差異が生じている。そこで、人的
控除などについては、【図2】に示す通り、一定の所得金額に最低税率を
乗じた金額を税額から控除する「税額控除方式」や、一定の所得金額まで
の税率をゼロとする「ゼロ税率方式」への変更を検討すべきである。

■中小法人に対する繰越欠損金控除制限及び外形標準課税の不適用■

(1) 繰越欠損金の100%控除制度の維持
中小法人は、大法人と比べ財務基盤も弱く、繰越欠損金に控除制限
を設けると、中小法人の資金繰りを圧迫することになる。また、中小
法人は、大法人と比べ業績回復には相当な期間を要する場合が多
い。したがって、中小法人に対しては現行の繰越欠損金の100%控除
制度を維持すべきである。
  (2)中小法人への外形標準課税の不適用
中小法人の雇用の確保と資金繰り悪化を防ぐためだけでなく、地方創生の観点からも、中小法人には法人事業税の外形標準課税を適用すべきでない。

■償却資産に係る固定資産税の抜本的見直し■

(1)償却資産に係る固定資産税の位置づけ 
     税収規模は約1兆6000億円であり、地方財政における安定した基
幹税の一つとなっている。
    また、平成28年度与党税制改正大綱では「償却資産に対する固定資
産税の制度は堅持する」とされている。
  (2)税制審議会の答申
平成28年度は、諮問「償却資産に係る固定資産税制度のあり方について」に対して答申があった。
答申では、
① 業種間で税負担が偏在している
② 市町村の執行体制と課税客体の補足が十分でない
③ 事業者の事務負担が煩雑である
等の問題点が指摘されている。
答申は、それらの問題点を踏まえて提言を行っており、その内容を要約したものが建議項目となっている。
(3)建議項目の概要
   ①将来的には廃止
     建議書では、国際競争力の観点からも将来的には廃止を検討すべきで
あるとしている。
②解決案の提示
・償却資産税を固定資産税とは異なる新たな税目とすること 
・賦課期日を法人の決算日とすること
・申告期限を所得税及び法人税の申告期限と一致させること
・将来的にe-TaxとeLTAXを連携又は統一することにより税額確定方式
を申告納税方式に変更すること
   ・設備投資の促進を税制で一層支援し、さらに小規模事業者の事務負担
を軽減するために、免税点を300万円(現行150万円)程度に引き上げ
ること
   ・申告業務の簡素化のため、国税の課税標準の計算方法との整合性を図
ること

■個人事業者番号の導入■

(1)現行制度の問題点
法人番号の利用により、当事者は経済的なメリットを享受することが
できる。これに対して、個人番号はその取り扱いが法令で限定されてい
るため、個人事業者等には取引の際に自由に利用できる「番号」が存在
しない。すなわち、個人事業者は、法人番号が有する経済的なメリット
を享受できない。
(2)個人事業者番号の導入 
個人事業者等について、法人番号と同様に運用上の制限が少ない「個
人事業者番号」を導入し、その付番を選択的に受けられるようにする必
要があるとしている。
この結果、法人の番号は法人番号に統一され、個人番号は個人の税・
社会保障・災害対策のみに利用され、「個人事業者番号」は個人事業者
等が経済活動をする際に広く用いられることとなり、新たな価値の創出
につながることが期待される。
 なお、消費税における適格請求書発行事業者の登録に関連して、建議
書は、法人番号及び「個人事業者番号」の活用を検討すべきであるとし
ている。


【総  評】
前回に引き続き、日本税理士会連合会が取りまとめた平成30年度税制改正に関する建議書について取り上げたのは、今年12月に提出される自民党政権下での平成30年度税制改正にどこまでこの建議書が取り込まれているかの確認の意味での意図からです。

特に同意を示したのが、下記事項です。
(1)単一税率制度の維持
   軽減税率制度には次のような問題がある。
  ・区分経理等により事業者の事務負担が増加する
  ・逆進性対策として非効率であるうえに、財政が毀損し社会保障給付の抑
制が必要になる
  ・簡易課税制度が複雑な制度となる
  ・軽減税率適用に関する訴訟等が増加する
   特に、事業者の事務負担の増加は軽視できない問題である。
  例えば、国税庁は「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(制度概要編)」
(平成29年1月改訂)及び「同(個別事例編)」(同)を公表しているが、事
業者には、こうした項目の一つ一つに適切に対応することが求められてい
るが、その一つ一つに膨大な事務負担を強いられることになる。
 こうした観点から、日税連は低所得者対策の代替案として、あらかじめ
国が一定額を入金したプリペイドカードを配付する方法や、一定額の簡素
な給付措置を提言した。プリペイドカードによる方法は、購入時にカード
をレジにかざすなどし、軽減税率対象品の場合、標準税率と軽減税率の差
に相当する消費税額がカードから引かれる仕組みである。
また、簡素な給付措置は、平成26年4月の消費税率8%への引き上げによ
る影響を緩和するため、低所得者に対する暫定的措置として導入された
「臨時福祉給付金」のような仕組みである。
 いずれの措置も、低所得者へのピンポイントの給付が可能である点にお
いて、軽減税率制度より優れているといえる。

このまま消費税における事務負担が増えたことを理由に、弊事務所のような税理士事務所からの税理士報酬を増加させることを顧問先様等へ御理解いただくのは難しく、徒に税務リスクを同時に増加させるか、一旦期限内に申告して、5年内に更正の請求で還付申告を行うかしないと、納税者の税負担のバランスを保てなくなる恐れがあります。
いずれにも得のない改正のように映ります。

しばらくは会計税務コラム等の事務所通信をご提供していく予定ですのでご期待ください。
posted by 7に縁がある税理士 at 19:42| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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