2024年09月08日

令和6年(2024年) 税理士会員向けの会員相談室に寄せられた相談事例

(税理士会員相談室)
<<法人税>>
● 完全親法人に対する不動産譲渡損益の計上繰延べ
質 問
S 社は、令和4年5月に株式交換によって100%支配関係に当たるP社のグループに入った。令和5年1月1日から5月末日までの間に遊休資産である土地及びその上に存する建物(以下「不動産」という。)をP社に売却する予定である。この不動産は減損会計の対象となっており、令和2年5月期に評価損87,392千円を計上した結果、帳簿価額は45000 千円となっている。帳簿価額の45000千円で売却した場合の税務処理がどうなるか。また、
資本関係のない他社から40,000千円で購入の申し出がある。仮に時価と異なる価額でP社に売却した場合のS社とP社の税務処理はどうなるか。なお、不動産を譲り受けたP社がその後その不動産を100%グループ内の他の会社に譲渡した場合にS社の税務処理はどうなるか。
回 答
本事例のS社とP社間は完全支配関係にあるので、いわゆるグループ法人単体課税制度の適用対象となる。本事例の譲渡の対象となる土地及び建物のそれぞれの譲渡直前の帳簿価額が10,000千円以上であれば、いずれも譲渡損益調整資産に該当し、譲渡損益の繰延べの対象となる。時価と異なる価額で譲渡があった場合は、その差額が受贈益または寄附金となる。たとえ100%グループ内であっても譲受法人であるP社が他の関係会社に譲渡した場合は、S社において繰延べた譲渡損益を計上し、戻し入れる処理が必要となる。
検 討
1 譲渡損益の繰延べと戻入計上
本事例であるが、帳簿価額の45,000千円が適正な売買価額であるとすれば、会計上の譲渡損失は生じないが、税務上は次の仕訳が想定される。
(借 方)
(貸 方)
現 金 預 金 45,000 千円 土地・建物 132,392 千円
固定資産譲渡損失 87,392 千円
(注) 土地と建物はどちらも譲渡損が生じているものとする。減損会計の適用による評価損の金額87,392 千円は、税務上評価損の計上が認められる事実には該当しないとして、S社では令和2年5月期の申告調整で加算(留保)されているので、その対象となった不動産が令和2年5月期で譲渡される結果、同期の申告調整で減算(留保)される。
一方、減算の対象となった不動産がいずれも譲渡損益調整資産に該当すれば、グループ法人単体課税制度のうち資産の譲渡損益の繰延べの規定(法法61の13①)の適用を受けるので、上記の仕訳で示している固定資産譲渡損失の金額87,392千円が「譲渡損益調整勘定」として申告調整で加算(留保)される。
もっとも、P社が譲り受けた不動産のうち適正に計上した建物の減価償却費に見合う一定の金額はS社で減算(留保)調整して戻し入れる。また、P社が譲り受けた不動産を他に譲渡した場合も戻入未済の残額を S 社で減算(留保)調整して戻入処理をすることになる(法法 61の13②、法令122の14④一、三)。
2 時価と異なる価額で譲渡された場合
資本関係のない他社が40,000千円の買取価額を示している事実があり、これが実勢価額とされれば売買価額との差5,000千円が生じ、これがS社側では受贈益(完全支配関係のあるグループ法人間なので法人税法第25条の2第1項の規定により全額益金不算入)となり、P 社側では寄附金(完全支配関係のあるグループ法人間なので法人税法第37条第2項の規定により全額損金不算入)となる。譲渡損益調整資産に該当する資産の譲渡であっても、資産の譲渡であることに変わりはないので、実際に収受した金銭等の額ではなく、原則どおり時価で譲渡があったものとして税務処理をすることになる。
● 損害賠償金の損金計上時期
質 問
Y社の社員が起こした不祥事により、Bが損害を受けたとして雇用者責任を追及された。Y 社は事故の過失を認め損害賠償に応ずることになった。Y社は銀行融資が2500万円しか受けられないとして当期末までに2500万円を支払った。その後、翌期に入って賠償金額4000万円の合意がなされ、追加の1500万円は3年の分割払いにすることが決まった。しかし、当期の法人税の申告期限までに「合意書」等のような正式な文書作成には至っていない。期中に支払った2500万円は当期の損金の額に算入できるか。
回 答
損害賠償金の額が確定していない場合であっても、期末までに支払われた賠償金が当事者間(Y社とBとの間)で争いがない金額と認められれば、当期の損金の額に算入される。
検 討
なお、翌期に入って当事者間の合意がなされ損害賠償金の額が4000万円と確定したようであるが、これを明らかにするために「合意書」等の文書の作成が必要となろう。本事例の残額の1500万円は、たとえ分割払いがされたとしても、損害賠償金の額が当事者双方で合意され確定したときに債務が確定したとして、その確定した日の属する事業年度で全額を損金の額に算入することが認められよう。
【総 評】
今回は会員相談室に寄せられた相談事例について取り上げたのは、意外に見落としやすい論点を再確認していただきたい意図からです。特に 100%支配関係に当たる P 社のグループに土地建物売却後、資本関係のない他社が低い買取価額を示している事実があり、これが実勢価額とされれば売買価額との差が生じた時は注意が必要です。この場合、100%支配関係に入ったS社の方で法人所得の計算上、減算(全額益金不算入)し、100%支配関係に当たるP社の方で法人所得の計算上、加算(全額損金不算入)としなければなりません。しばらくは会計税務コラム等の事務所通信をご提供していく予定ですのでご期待ください。
posted by 7に縁がある税理士 at 20:48| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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