<<資産税>>
● 交換の特例の「交換のために取得したものでないこと」の要件
質 問
Aは、長期保有のP宅地をBが2年前に取得したQ宅地と交換する。両宅地は等価であり、Aは、交換後のQ宅地を宅地の用に供する。Aは、固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(以下「交換の特例」という。)の適用を受ける考えである。
交換の特例には、対象資産の要件として、相手方が「交換のために取得したと認められるものを除く」との要件があるが、Aは、Bが2年前にQ宅地を取得したことは、取引の際の資料等により確認しているものの、Bがそれを交換のために取得したかどうかについては判定することができない。Aの交換は、Q宅地をBが交換のために取得したと認定されて、Aの交換の特例の適用が否認されることにはならないだろうか。
回 答
2年前にBがQ宅地を取得した目的がその後に行う交換のためであったことが客観的に明らかでない場合には、「交換のために取得したと認められるものを除く」という特例適用除外事由をクリアーしたものとして、交換の特例を適用することができる。
検 討
交換の特例の適用要件には、①各当事者が1年以上所有していた固定資産であること、②交換取得資産につき相手方が交換のために取得したと認められるものでないことが含まれている。上記要件のうち、①の要件は譲渡資産及び取得資産の両方に適用される。取得資産についての「1年以上所有」の要件は、昭和40年度の税制改正により追加されたものであり、その改正前は譲渡資産のみの要件であった。他方、取得資産に係る②の要件は、①の改正前から存在している。
昭和40年度改正当時の大蔵省主税局の担当官の説明によれば、相手方所有であった取得
資産についても「1年以上の所有要件」を追加し、これを外形基準として上記②の要件の判定を容易にしたのがその改正の趣旨であったことが認められる(昭和40年版「改正税法のすべて」大蔵財務協会35頁)。
● 譲渡資産が自己の事業用の試算でない場合の買換え等の特例の適用
質 問
甲は、10年ほど前に、営んでいた大都市郊外での農業経営は、農業経営移譲年金を受給するために甲と同居し生計を一にしている長男乙に移譲した。
甲は、この度、公共事業のために自己が所有し乙が営む農業の用に供してきた農地1,800 ㎡を買い取られ、対価補償金7000万円を受け取った。補償金収入で代替資産としての土地の買換えを行う意向はなく、自己が所有する土地上に7000万円の建築費用を投じて貸家建物数棟を新築したいと思っている。
甲が行う予定の貸家の新築について、租税特別措置法33条1項に規定する収用等により資産を買い取られた場合の代替資産の取得の特例(以下「代替資産取得の特例」という。)の適用を受けることができるか。
回 答
甲は、新築して貸家の用に供する建物を代替資産として、代替資産取得の特例を適用することができる。
検 討
代替資産取得の特例の代替資産となるのは、
①個別法としての譲渡資産の種類区分ごとの「同種の資産」(措令22④)、
②一組法としての譲渡資産の用途区分に応ずる「一組の資産」(措令22⑤)、
③事業継続法としての譲渡資産がその譲渡人の事業用であった場合に、その者が事業用に供するために取得する上記①②に該当する資産以外の資産である(措令22⑥)。
甲が新築する貸家建物は、上記③の事業継続法の「事業用資産」に該当する。
なお、この場合における甲の譲渡資産は、甲の事業用に供されていたものではなく、長男乙の事業用に供されていたものであって、甲の取得資産は、甲自身の事業用に供するものである。
しかし、事業用資産の所有者と事業経営者が異なることになった場合においても、双方が生計を一にしているときは、その譲渡資産及び買換資産のいずれもがその譲渡・買換えをした者の事業用資産であるとみて、この特例を適用する取扱いが定められている(措通33-43)。
この取扱いは、特定の事業用資産の買換えの特例(措法37①)にも、準用される(措通37-22)。
● 低額譲受益課税を受けないで配偶者控除の適用をする贈与税対策
質 問
丁は、このほど丙との婚姻期間が20年以上となったので、丙から通常の売買価額が4600万円と認められる自宅の土地家屋(以下「自宅不動産」という。)
全部の贈与をしてもらい、贈与税の配偶者控除2000万円(以下「本件控除」という。)の適用を受けたいと考えた。
丁は、税務署の担当部門に出向いて相談したところ、自宅不動産の相続税評価額が3,500 万円であり、丁が自宅不動産の贈与を受けて本件控除の適用をしても贈与税が450万円余もかかることが判明したことから、その計画は断念した。
その後に丁の父が死亡し、丁が遺産中の預金を相続して、相続税納付後の預金額3000万円が残存している。丁は、その残存預金額を原資に丙から自宅不動産を買い受けることで、当初本件控除の適用対象財産として受贈予定であった自宅不動産を改めて取得するつもりである。
この場合には、丁に対する贈与税の課税関係は、どのようになるのか。
回 答
丁が丙から自宅不動産を買い受ける場合は、丁に対して、自宅不動産の相続税評価額とその買受価額との差額でなく、通常の取引価額4600万円と買受価額3000万円との差額に相当する低額譲受益1600万円を対象に贈与税が課税される(平成元年3月29日付け個別通達)。
しかし、丁がこの受贈益1600万円につき、丙から自宅不動産に係る居住用不動産に係る居住用不動産の一部の贈与を受けたとして贈与税の申告をすればこれが認められる。
検 討
丁の本件控除の適用関係について検討してみると、相続税法21条の6第1項に規定する「居住用不動産」でも「居住用不動産を取得するための金銭」でもなく、自宅不動産を低額で譲り受けたことによる「経済的利益の享受」であるから、これが本件控除の対象財産とはならないと考えられる。
しかしながら、この売買では、居住用不動産に該当する自宅不動産のうち一部が売買され残余が贈与されたと見ることができ、本件控除では居住用不動産の一部の贈与も適用することが可能であるから、この自宅不動産に係る低額譲受益額1600万円につき居住用不動産の一部贈与があったとして贈与税の申告書を提出すれば、本件控除を適用することができることになる。
● 短期前払費用通達の運用上の留意点
質 問
同族会社であるA社は、代表取締役B氏の所有する不動産を借用して、事業を営んでいる(3月決算法人)。A社は資金的な余裕があり、かつ、B氏からの要望もあったため、家賃等の支払方法を1年分のまとめ支払いに変更することを考えている。
法人税の短期前払費用の取扱いは、実務上浸透しているようであるが、運用上注意しなけ
ればならない点をご教示いただきたい。
回 答
短期前払費用の取扱いは、①契約に基づくものであること、②継続的に役務の提供を受けるものであること、③1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払ったこと、④継続して支払った日の属する事業年度の損金の額に算入していること、⑤収益と対応させるべき費用でないこと、という要件が付されている(法基通 2-2-14)。
そのため、通達の運用上は、これらの要件を逸脱しないよう配慮する必要がある。
検 討
(1)
通達運用上の留意点
②「継続的に役務の提供を受けるもの」については、等質等量のサービスが契約期間中に継続的に提供される必要がある。本件は、不動産の提供に基づく家賃等であるため、その解釈の範疇にある。なお、税理士の顧問契約等については、役務の提供度合いが等質等量とは言えないケースが多いため、通達の適用にあたって否定的な考えが支配的である。
③「1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払っていること」は、当年4月から翌年3月分の家賃等であるならば、当年3月末に支払ったものであれば許容範囲であると思うが、当年2月に支払ったものについては、短期前払費用の取扱いは適用されない。つまり、役務の受入れの開始前に対価の支払が行われ、その支払時から1年を超える期間を支払対象期間とするようなものは、通達の適用から除外されていることを読み取らなければならない。
なお、家賃等が未払の場合には、本通達の対象とならない。
④ 本件のような同族関係者間取引であれば、一旦変更された契約内容については、むや
みに変えるべきではない。
(2)
想定しておかなければいけない留意事項
短期前払費用の取扱いの適用により、支払者側は損金の一時計上を行うことになるが、反射的に受取側は収益として認識されるため、変更年度の課税所得の増幅効果が生じる。
そこで、月額から年額への変更は、単に12倍した金額の家賃等の取り決めではなく金利調整分のディスカウントを配慮する、又は事実上の値上げの意味合いを整備する等の必要性について、併せて検討するべきである。
最後に、所有権移転外ファイナンスリース等の要件を満たすような賃貸借契約で
あった場合(定期借家契約等)には、短期前払費用の取扱いが適用できなくなる。
【総 評】
今回は会員相談室に寄せられた相談事例について取り上げたのは、意外に見落としやす
い論点を再確認していただきたい意図からです。
特に婚姻関係20年以上の夫婦間における「低額譲受益課税を受けないで配偶者控除の適用をする贈与税」に関しては、夫婦間で行う売買価額が自宅不動産の通常の売買価額4600 万円なのか相続税評価額3500万円なのかを注意して行い、居住用不動産の一部贈与があったとして贈与税の申告書を提出しなければなりません。
しばらくは会計税務コラム等の事務所通信をご提供していく予定ですのでご期待ください。